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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)1604号 判決

原告 林朝清

被告 浦上郁夫

同 中村藤一

右両名代理人弁護士 白井正実

主文

一、原告の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告らは、訴外ハウス食品工業株式会社(以下、単に訴外会社という。)に対し、連帯して、左記金員を支払え。

(一)  金五〇〇万円およびこれに対すする昭和五〇年二月二五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員

(二)  金三〇〇万円およびこれに対する昭和五〇年一月二九日から支払済に至るまで年五分の割合による金員

2. 訴訟費用は被告らの負担とする。

二、請求の趣旨に対する被告両名の答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

(請求の趣旨1の(一)の訴((以下、旧訴という。)))

1. 原告は、昭和五四年二月三日の六か月前から引続き訴外会社の株式を保有する株主である。

2. 昭和四五年一月二六日ころから同五〇年二月三日ころまでの間、被告浦上郁夫は訴外会社の取締役兼代表取締役であり、同中村藤一は同会社の取締役であった。

3.(一) 被告両名は、右期間中に次の各行為におよんだ。

(1)  訴外会社の定款には役員の受けるべき報酬の額についての定めがないところ、昭和四五年一月二六日開催の取締役会において、被告浦上は代表取締役として、退任役員の退職慰労金支給額の算定方法に関する「役員退職慰労金規則」(以下、「内規」という。)の制定を、予め株主総会における授権決議を得ずに提案し、被告中村は取締役として、他の取締役とともに右「内規」の制定を承認する決議に参加した。

(2)  昭和五〇年一月八日開催の取締役会において、被告浦上は代表取締役として、「監査役浦上武雄の退任に伴い同人に対して退職慰労金贈呈の件」を昭和五〇年一月二九日に開催される第二八期定時株主総会の議題とすることを提案し、被告中村は取締役として、他の取締役とともに、これを承認する決議に参加した。

(3)  「内規」制定について株主総会の事前の授権および事後の承認決議が存在しなかったにもかかわらず、被告浦上は代表取締役として、被告中村は取締役として、昭和五〇年一月二九日開催の第二八期定時株主総会に出席し、前記退職慰労金贈呈の議題に関して、「退職慰労金を支給する。その金額、支払時期、支払方法の決定は取締役会に一任する。」旨の決議を成立させた。

(4)  右同日開催の取締役会において、被告両名は取締役として、他の取締役とともに、「右退職慰労金の金額、支払時期、支払方法の立案は、内規および訴外会社の慣例に従うことを条件として、同会社の取締役の一部により構成される常務会に一任する。」旨の決議に参加した。

(5)  昭和五〇年二月三日開催の取締役会において、被告両名は取締役として、他の取締役とともに、退任監査役浦上武雄に対する退職慰労金に関する次の内容の常務会案を承認する旨の決議に参加した。

(イ) 金額 金五〇〇万円

(ロ) 支払時期 同月二五日

(ハ) 支払方法 一括払

(二) 訴外会社は、右取締役会決議に基づいて、昭和五〇年二月二五日、浦上武雄に対する退職慰労金五〇〇万円の支払を完了した。

(三) しかしながら、定款に役員の受けるべき報酬の額についての定めのない訴外会社において、「内規」の制定および退任監査役浦上武雄に対する右退職慰労金の支払に関する前記株主総会および取締役会の各決議は、商法二八〇条、二六九条の趣旨に反する違法、無効のものであり、右各決議を成立させた被告両名の行為は、代表取締役あるいは取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反したものであるといわなければならない。訴外会社は、被告両名の右違法行為によって、本来支払うべきものではない退職慰労金五〇〇万円を浦上武雄に支払い、同額の損害を被った。

(四) そこで、原告は、訴外会社に対し、昭和五四年二月五日に到達した書面をもって、被告両名の損害賠償責任を追求する訴を提起するよう請求したが、同会社は、その後三〇日を経過しても被告両名に対して右の訴を提起しない。

(請求の趣旨1の(二)の訴((以下、新訴という。)))

1. 昭和五〇年一月八日から同月二九日までの間、被告浦上は訴外会社の取締役兼代表取締役であり、被告中村は取締役であった。

2.(一) 被告両名は、右期間中に次の行為をした。

(1)  訴外会社の定款には役員の受けるべき報酬の額についての定めがないところ、昭和五〇年一月八日開催の取締役会において、被告浦上は代表取締役として、役員賞与金三〇〇〇万円の支給を含む利益処分案を同月二九日に開催される第二八期定時株主総会の議題とすることを提案し、被告中村は取締役として、他の取締役とともにこれを承認する決議に参加した。

(2)  被告浦上は代表取締役として、被告中村は取締役として、昭和五〇年一月二九日開催の右株主総会に出席し、前記役員賞与金三〇〇〇万円の支給を含む利益処分案を原案どおり承認する旨の決議を成立させた。

(3)  同日開催の取締役会において、被告浦上は代表取締役として、前記株主総会において承認された利益処分案のうち役員賞与金三〇〇〇万円の配分方法について提案し、被告中村は取締役として、他の取締役とともに、その配分を議長に一任する旨の決議を成立させた。

(二) 訴外会社は、右取締役決議に基づいて、配分された役員賞与金の支払を完了した。

(三) しかしながら、定款に役員の受けるべき報酬の額についての定めのない訴外会社において、役員に賞与金を支給するには、招集通知に議題として役員賞与金支給に関する件を記載するほか、議案の要領を記載して招集された株主総会の決議によらなければならないのに、利益処分案の承認として株主総会の決議を成立させたうえ、役員賞与金の配分を議長に一任する旨の取締役会決議を成立させた被告両名の行為は、代表取締役あるいは取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反したものというべきである。訴外会社は、被告両名の右違法行為により、本来支払うべきものではない役員賞与金三〇〇〇万円を支払い、同額の損害を被った。

よって、原告は、商法二六七条二項により、請求の趣旨1の(一)、(二)記載の判決((二)については内金三〇〇万円の請求)を求める。

二、請求原因に対する認否および主張

(旧訴)

1. 請求原因1、2の各事実は認める。

2. 同3の(一)の(1)、(2)、(4)、(5)の各事実および(3)の株主総会に被告両名が出席して、原告主張のような決議が成立したことは認める。被告両名が(3)の決議を成立させたものではない。

3. 同3の(三)の主張は争う。

4. 同3の(四)の事実は認める。

(新訴)

1. 原告は、第七回口頭弁論期日において、新訴の追加的変更をしたものであるが、右訴の変更は、変更前の訴である旧訴との間に請求の基礎の同一性がなく、仮りに、これがあるとしても、右変更を認めると著しく訴訟手続を遅滞させることになるから、許されない。

2.(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の(一)の(1)の事実および(2)の株主総会に被告両名が出席して原告主張のような決議が成立したことは認める。同(3)の決議の内容を否認する。右決議は、配分を一任された議長が具体的な配分額をその場で提案したところ、取締役全員が異議なくこれを承認し、監査役もこれを承認したものである。

(三) 同2の(三)の主張を争う。株主総会で役員賞与金三〇〇〇万円の総額が決められた以上、具体的にその配分を決めず、また、配分を取締役会に一任するという決議がなくとも、取締役会が業務執行の一環として、その配分を決定することは、取締役会の権限に属することであり、違法ではない。

三、抗弁(旧訴)

1.(一) 昭和五〇年一月二九日開催の第二八期定時株主総会における退任監査役浦上武雄に対する退職慰労金贈呈に関する決議は、同人に対する退職慰労金の支給を承認し、その金額、支払時期、支払方法については、訴外会社の「内規」および慣例に従うことを条件として、取締役会に一任したものである。

(二) 右「内規」は、退職慰労金支給について従来から訴外会社に慣行的に存在していた基準を、昭和四五年一月二六日開催の取締役会において成文化することを決議したものであり、退任監査役の退職慰労金の支給額については、任期中の最高報酬月額に一定率を乗じて得られる職別基本額に在任月数を乗じたうえ二で除して得られる額に三〇パーセントを越えない功績加算をした額とする旨の算定方法を定めたものである。右「内規」制定後は、退職慰労金は「内規」にしたがって算定されてきたし、本件退職慰労金支給に関する決議をした株主総会も右「内規」のあることを明示的又は黙示的に承認し、それを基準として諸般の事情を考慮のうえ算定することを取締役会に一任したものであって、取締役会は退職慰労金算出について主観的、恣意的な判断をする余地はない。

(三) したがって、右(一)の株主総会決議は、商法二八〇条、二六九条の趣旨に反するものではなく、有効であるから、右決議に基づく訴外会社の退任取締役浦上武雄に対する退職慰労金の支給も適法であり、その間の一連の手続に関与した被告両名には、何らの損害賠償責任もない。

2. 仮りに、右主張が認められないとしても、原告は、昭和五〇年一一月一二日に至って、訴外会社の株式一四四株を譲受け、名義書換手続を了したうえ、右1の(一)の株主総会開催当時の事情等を調査することなく、被告両名に対する損害賠償請求におよんだものであって、原告の請求は株主権の濫用として許されない。

四、抗弁(旧訴)に対する認否

1. 抗弁1の(一)の事実および(二)の「内規」が被告ら主張の取締役会決議に基づいて制定された事実は認める。

2. 同2の事実のうち、原告が昭和五〇年一一月一二日に訴外会社の株式を譲受け名義書換を了したものであることは認めるが、原告の請求が権利の濫用にあたるとの主張は争う。

五、再抗弁(旧訴)

1. 「内規」は、訴外会社の株主総会における授権決議に基づかずに被告ら主張の取締役会決議により制定されたものであり、制定後も株主総会における承認決議を経ていない。

したがって、このような「内規」制定手続そのものが違法であり、「内規」は無効であるのみならず、その内容を議案の添付書類に記載していない、本件退職慰労金支給に関する第二八期定時株主総会決議は、退職慰労金の金額、支払時期、支払方法の決定を無条件に取締役会に一任した決議というべきであり、このような決議は、商法二八〇条、二六九条に違反する無効な決議である。

2. 仮りに、原告の右主張が認められないとしても、右「内規」は、取締役会の決議に基づき随時改廃できるとされているばかりか、訴外会社の規模、営業成績等に比較して不当に高額の支給を許容するものである。

したがって、このような内容の「内規」を規準として退職慰労金の金額、支払時期、支払方法の決定を取締役会に一任した本件退職慰労金支給に関する第二八期定時株主総会決議は、これらを無条件に取締役会に一任した決議と同視すべきであり、多数決の濫用に基づく、商法二八〇条、二六九条に違反する無効な決議である。

六、再抗弁(旧訴)に対する認否

1. 再抗弁1の事実のうち「内規」が訴外会社の株主総会の授権に基づかないで制定されたこと、事後に株主総会の承認を得ていないことは認める。

2. 同2の事実のうち、「内規」が取締役会の決議に基づき随時改廃できるとされていることは認めるが、訴外会社の規模、営業成績等に比較して不当に高額な退職慰労金の支給を定めているとの原告主張事実は否認する。

第三、証拠〈省略〉

理由

第一、旧訴請求について

一、昭和四五年一月二六日ころから同五〇年二月三日ころまでの間、被告浦上が訴外会社の取締役兼代表取締役であり、被告中村が取締役であったこと、原告が訴外会社に到達した書面をもって、被告両名が代表取締役又は取締役として、訴外会社の第二八期定期株主総会の決議に基づき退任監査役浦上武雄に対する退職慰労金を支給する手続に関与したことが違法であるとし、右退職慰労金の支給により同会社に損害を与えたことを理由に、被告両名の賠償責任を追及する訴を提起するよう求めたことは、いずれも当事者間に争いがなく、各成立に争いのない甲第一号証、乙第一〇号証の一、二によれば、昭和五四年二月五日に原告の訴外会社に対する右書面が到達したことが認められる。また、原告が右請求をした時以前の六か月間引続いて訴外会社の株主であったこと、訴外会社は昭和五四年二月五日以降三〇日を経過しても被告両名に対するその責任追及の訴を提起しなかったことは、いずれも当事者間に争いがない。

したがって、原告の被告両名に対する本件旧訴は適法に提起されたものと認められる。

二、原告の旧訴請求は、要するに、昭和五〇年一月二九日開催の訴外会社第二八期定時株主総会における「退任監査役浦上武雄に対して退職慰労金を支給する。その金額、支払時期、支払方法の決定は取締役会に一任する。」旨の決議は、商法二八〇条、二六九条の趣旨に反し、当然無効であるから、右決議に基づく右退職慰労金の支給も違法であり、したがって、右決議に至る一連の手続およびその後右支給に至るまでの一連の手続に被告両名が関与したことが、代表取締役又は取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反することになるから、商法二六七条二項に基づき、訴外会社が右退職慰労金の支給によって被った損害の賠償を被告両名に求めるというのである。

おもうに、商法二八〇条、二六九条は、退職慰労金を含む役員の報酬の決定について、定款又は株主総会の決議で定めるべきものとし、取締役会あるいは代表取締役によるいわゆるお手盛の弊を排除しようとするものであるところ、右株主総会決議が、金額の決定についてはその最高限度を定めた社内規則に従うことを条件に、金額、支払時期等の決定を取締役会に一任するものであれば、株主総会が、自ら当該規則に基づく最高限度額までの退職慰労金の支給を承認したことにほかならないのであるから、そのような株主総会決議は右各法条の趣旨に反するものとはいえず、これを有効と解するのが相当である。

これを本件についてみるのに、昭和五〇年一月二九日開催の訴外会社第二八期定時株主総会における本件退職慰労金支給に関する決議が、退任監査役浦上武雄に対する退職慰労金の支給を承認し、その金額、支払時期、支払方法については、訴外会社の「内規」および慣例に従うことを条件として、その決定を取締役会に一任したものであること、右「内規」は、昭和四五年一月二六日開催の取締役会決議に基づいて制定されたものであり、退任監査役の退職慰労金の支給額については、任期中の最高報酬月額に一定率を乗じて得られる職別基本額に在任月数を乗じたうえ二で除して得られる額に三〇パーセントを越えない功績加算をした額とする旨の算定方法を定めたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。したがって、本件退職慰労金支給に関する株主総会決議は前記説示するところに照らしてこれを有効と認めるのが相当である。

三、原告は、「内規」それ自体についても、商法二八〇条、二六九条の趣旨によれば株主総会が制定すべきであり、したがって株主総会の授権に基づかずに制定され、かつ、その後承認も受けていない「内規」は無効であって、このような「内規」に従うことを条件に取締役会に金額等の決定を一任した本件退職慰労金支給に関する株主総会決議もまた無効であると主張する。しかしながら、前記事実によれば、「内規」は、昭和四五年一月二六日開催の取締役会決議に基づいて制定されたもので、退任監査役の退職慰労金支給額についてその最高限度額を定めたものであるというのであるから、それに従うことを条件に金額等の決定を取締役会に一任した本件株主総会決議が前記各法条の趣旨に反する無効のものであるとはいえないことは前記二の説示に照らして明らかであり、原告の主張は採用できない。

四、さらに、原告は、「内規」の内容を取締役会が随時改廃できること、「内規」の内容が訴外会社の規模、営業実績に比較して不当に高額の金員の支給を定めていることを理由に無効であるとし、このような「内規」に従うことを条件に取締役会に金額等の決定を一任した本件退職慰労金支給決定に関する株主総会決議もまた無効であると主張する。しかしながら、「内規」の内容を取締役会が随時改廃できることは、右株主総会決議を無効と解すべき理由とはなりえないし(もっとも、株主総会で役員の退職慰労金の支給額等の決定を「内規」に従うことを条件として取締役会に一任する旨の決議が成立した後、取締役会が右支給額の算定方法に関する「内規」を改正し、改正後の「内規」によって支給額を決定したような場合には、当該退職慰労金の支給に関する取締役会の決定は違法といわなければならないが、原告は、本件について右のような事実を主張していない。)、また、成立に争いのない乙第一二号証の二および証人藤田吉男の証言によれば、「内規」に定められた役員退職慰労金の額は訴外会社の規模、営業実績に照らしても相当であると認められ、他にこれが著しく不相当なものであることを認定せしむるに足りる証拠はない。したがって、原告の右主張もまた理由がない。

五、以上のとおり、本件退職慰労金支給に関する株主総会決議は無効と解せられないから、原告が本訴で主張する右決議に至る一連の手続およびその後右決議に基づいて本件退職慰労金を支給するに至るまでの一連の手続に被告両名が関与した行為は、取締役又は代表取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反する行為であるとは解することができない。

第二、新訴請求について

一、被告らは、原告の新訴の追加的変更は旧訴との間に請求の基礎の同一性がなく、また、右変更を認めると著しく訴訟手続を遅滞させることになるから許されないと主張するので、まずこの点について判断する。旧訴は、被告両名が、代表取締役又は取締役として訴外会社の第二八期定時株主総会の決議に基づき、退任監査役に対する退職慰労金を支給する手続に関与したことが違法であるとし、右退職慰労金の支給により同会社に損害を与えたことを理由に、その賠償を求めるものであるところ、新訴も、やはり、被告両名が、代表取締役又は取締役として右株主総会の決議に基づき、役員に対する賞与金を支給する手続に関与したことが違法であるとし、右賞与金の支給により同会社に損害を与えたことを理由に、その賠償を求めるものであって、新旧両訴は、基本的な事実関係を同じくするものであり、裁判所の審理に根本的変革を生ぜしめることもなく、被告らの防禦に著しい障害を与えるものとは認めることができないから、請求の基礎に変更のない場合にあたると解するのが相当であり、また、本件の審理の経過に鑑みれば、右変更が本件訴訟を遅滞せしめるものでないことは明らかであるから、訴の変更を許されないものとする被告らの主張は採用できない。

二、昭和五〇年一月八日から同月二九日までの間、被告浦上が訴外会社の取締役兼代表取締役であり、被告中村が取締役であったことは、当事者間に争いがない。また、職権をもって按ずるのに、原告が、訴外会社に対し、昭和五四年一二月三日に到達した書面をもって、被告両名が代表取締役又は取締役として訴外会社の第二八期定時株主総会の決議に基づき、役員に対する賞与金を支給する手続に関与したことが違法であるとし、右賞与金の支給により同会社に損害を与えたことを理由に、被告両名の賠償責任を追及する訴を提起するよう求めたこと、原告が右請求の時以前の六か月間引続いて訴外会社の株主であったことは、記録上明らかであり、弁論の全趣旨によれば、訴外会社は昭和五四年一二月三日以降三〇日間を経過しても被告両名に対するその責任追及の訴を提起しなかったことが認められる。

したがって、原告の被告両名に対する本件新訴は適法に提起されたものと認められる。

三、原告の新訴請求は、要するに、役員に対する賞与金を支給するには、商法二六九条、二八〇条所定の株主総会決議を要するのに、これを利益処分案の承認として株主総会の決議を成立させたうえ、取締役会においてその具体的配分を議長に一任する旨決議して行った本件役員賞与金の支給は違法であることを前提とすのものである。

しかしながら、右各条の趣旨は、性質上会社利益と無関係に支給されるべき役員の勤労に対する対価たる報酬につき、その決定が本来業務執行に属するものであるにもかかわらず、取締役会又は代表取締役によるいわゆるお手盛りの弊を防止するために、これを株主総会の決議にかからしめたものである。これに対して、性質上会社の利益金の処分方法の一である役員賞与金の決定は、同条を待つまでもなく、本来的に株主総会の決議事項であるといわなければならず、その支給決議は、利益配当の決定に準じて、同法二八三条一項所定の利益処分案承認の決議によることを要し、かつ、それをもって足りると解するのが相当である。なお、右の役員賞与金の性質に照らせば、利益処分案には役員賞与金の総額を掲げておけば足り、その具体的配分は、業務執行の意思決定機関である取締役会に一任しても妨げはないと解される。したがって、これと反対の見解に立つ原告の新訴請求はその前提を欠き理由がない。

第三、結論

よって、原告の本訴各請求はいずれも理由がないのでこれを失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 道下徹 裁判官 東條敬 四宮章夫)

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